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[オピニオン]ストーリーと感性を売る時代

[オピニオン]ストーリーと感性を売る時代

Posted December. 17, 2001 10:53,   

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およそ10年前まで、私たちが洋服を買う時に第一の選択基準として考えていたのは、おそらく生地の質だったような気がする。年配者の中には、先ずどの会社の製品なのか確かめた後に、生地が毛織りか混紡でできているのか材質まで調べた経験を、一度くらいはしているはずだ。

次に、裁縫の状態をチェックしてから洋服を買うというのが一般的だった。ところが今日、ほとんどの消費者にとって、洋服の材質と裁縫状態は、もはや選択基準ではなくなっている。驚いたことに、80近い私の母親の洋服を買う時の基準は、第一がブランドで二番目がデザインだそうだ。ブランドは、製品そのものというよりは、その服を作った会社のイメージと信頼を盛込んでいるストーリーであり、デザインこそが感性であり文化といえるのだ。

もはや、消費者は物を買うというよりは、その物の中に込められているストーリーと文化を買っているのである。市場が、理性の力よりはストーリーと感性の力によって動いていることを裏付けるものといえる。

果してそうだろうか。これを証明するために、私は教え子たちに、多少突飛な質問を投げかけてみた。「慶州(キョンジュ)に行けば、聖徳(ソンドク)大王神鐘とエミレーの鐘が有名だが、先に見たいのはどれか」。

予想どおり、かなりの学生が「エミレーの鐘を先に見たい」と答えた。「聖徳大王神鐘は後で見る」という意見と「見たくない」とする答えも出てきた。「同じ鐘じゃないか」と、質問の中のナンセンスに気づいた学生もあったが、肝心なことは、同じ鐘とはいえ、鐘という物の名前(聖徳大王神鐘)を買うよりは、鐘のストーリー(エミレーの鐘)を買うと答えた学生たちの態度である。単に物を売るだけだった時代の終えんを告げる、変化の兆候と言わざるをえない。

ストーリーと感性を売らなければ生き残れない、ということの事例は、すでに企業の広告競争にもはっきりと表れている。企業の諮問役をしている私の目に映ったA電子とB電子の、大型冷蔵庫市場における販促戦は、夢とストーリーそして感性が市場において、いかに重要な消費者の文化コードであるかを悟らせるものだ。

B社は、初期のテレビ広告で、冷蔵庫の前に座っている羊を背景にして「音がしない」とアピールして、製品の機能ばかり宣伝する。一方、A社は機能については一切の説明のないまま、女性タレントを登場させて「男には分からない。主婦たちの夢の冷蔵庫」というフレーズで、終始一貫して夢とストーリーを売込んでいる。結果は、序盤は機能をアピールした会社が優勢だったが、現在は、国内市場において夢と感性に訴えた会社の、完全な逆転となった。夢と感性とストーリーの力が、技術と物中心の宣伝に勝ったわけだ。

市場が、完全にストーリーと感性のマーケットに転じている証拠は、このほかにも随所から感じ取れる。森そのものが商品とされていたクァンヌン樹木園に、ストーリーを盛込んで売込む森の解説者が登場して、観客の数が急増したケース、そして三星(サムスン)電子のエニコールが、中国市場において韓流(ハンリュ、中国の韓国大衆文化ブーム)文化の波に乗ったスターストーリーと組合せて創り出した販売乗数効果は、従来の理性と合理主義の経営理論では説明できない。

ストーリーを売る市場はここに止まらず、観光市場にまで広がりつつある。テレビの人気ドラマだった「砂時計」のストーリーが、その舞台の一つだった正東津(チョンドンジン)への観光特需を創り出したことや、同じく「秋物語」のロケ地が、感性度の高い外国人観光客を引き付ける誘因要素となった事実などは、これを裏付けている。さらに、冷蔵庫の中のたまご市場の変化も、夢とストーリー市場の威力を実感させるものだ。

現代を生きる多くの消費者は、昼夜を問わず養鶏場で生産されたたまごよりは、多少高くても「受精卵」、「自然卵」という名のたまごを好むようになっている。動物倫理的な観点からみても、非倫理的生産方式の産物である養鶏場のたまごより、自然卵の中には、昔の忘れてしまった頃の夢とストーリーが込められているからだ。たまごの中に込められたストーリーの値打ち、つまり夢の値打ちに対して、人々は惜しみなく金を払っているのである。

ところが、本当に見過してはならないのは、私たちが直面している市場変化の文化コードの中にこそ、より大きな世の中の流れを読み取れる手がかりが隠されているという事実だ。それは、生産の核心的な動力、つまり世の中の価値の中心が、情報と先端技術からストーリーと感性、文化へと移りつつあるという事実だ。「ストーリーと感性を売込め」。次の時代への変化を読み取れる者は、市場の勝者となるだろう。

洪思鐴(ホン・サジョン)淑明(スクミョン)女子大教授(文化観光学)