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『ローマ人の物語』の作者、塩野七生氏が語るリーダー論

『ローマ人の物語』の作者、塩野七生氏が語るリーダー論

Posted March. 30, 2007 07:45,   

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●「リーダーには、相手の心を読むインテリジェンスが必要」

——ローマ史は、リーダー論、組職論、国家論などに幅広く引用されている。あなたが考える理想的なリーダーの資質は何か。

「ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)は、知力、説得力、肉体的耐久力、持続する意志、自己制御の5つを備えている人物だった。リーダーには『現状の見えない裏までも見る能力、相手の心を読むインテリジェンス』が必要だ。もう一つ、真のリーダーはみな刺激的だ。他人に刺激を与えるという意味でだ。権力とは、新しい考えを持たせる力だ」

——ノブレス・オブリージュも、作品にいつも取り上げられているが。

「ローマの力は、国民の安全を保障するインフラ構築とノブレス・オブリージュから出た。国民に最も必要なのはセキュリティ、すなわち安全だ。その次は、誇りと快適な生活。ローマのリーダーたちは、このような国民の必要を満たすために奉仕した」

——ローマは、「平和」のために多くの戦争もしなければならなかった。

「ローマ人は多くの戦争で勝った。しかし、勝った後には譲歩した。重要なことは、勝たずに譲歩すれば、秩序が生まれないという点だ。ローマ人は被征服民にも市民権を与え、要職に登用した。被征服民族出身のローマ皇帝が何人も出た。ローマは一種の多国籍企業で、そのソフトウェアは『ローマ法』だ」

——日本の政治家はどうか。小泉純一郎前首相と親しいそうだが。

「初めて会った時、彼は自分の最も好きな言葉が、マキャベリの『指導者は地獄に行く道を熟知してこそ、大衆を天国に導くことができる』と言った。『大衆を天国に導き、リーダー本人は地獄に落ちることだ。大丈夫か』と言ったら、笑っていた」

●「リーダーは、発言に慎重でなければならない」

——小泉首相から安倍晋三首相に変わって、リーダー一人で雰囲気がパッと変わるのを実感した。

「政治は必然的に、戦いでありドラマだ。演出も必要だ。それが嫌でできないなら、政治家ではなく官僚になるべきだ」

——リーダーの「発言」に焦点を合わせても、おもしろそうだ。最近、安倍首相の軍慰安婦に対する「協議の強制性」発言のため、国際的な非難を浴びている。

「安倍首相は話しすぎる。真剣に説明しようとして本音を隠すことができない。軍慰安婦発言はすべきではない発言だった。政治家は高い地位であればあるほど言葉に留意しなければならない。思いつくとおりに話す人は、リーダーになってはいけない。下の人々にとっても不幸だ」

——小泉前首相の「ワン・フレーズ」政治とは正反対だ。

「彼は言葉を選ぶ方だ。『ワン・フレーズ』で明瞭に言うが、実は発言を控えているのだ。大衆は、具体的に言った方が正しい判断をする。抽象的に言えばうまくいかない。誠意を持って本音を明かす安倍首相は、リーダーよりはいい夫タイプだ。しかし、小泉前首相のような人が夫なら、苦労が多いだろう(笑)」

——補佐も重要なようだ。小泉前首相には飯島勲という秘書官がいて献身的に補佐したが、安倍首相の周囲には献身的に補佐する人がいないという指摘が多い。

「政治の世界とは元来利害関係の離合集散だと言うが、やはりリーダーには『人間の魅力』というものが作用する」

●「韓国は持続可能なシステムを求めなければ」

——韓国にも『ローマ人の物語』の読者層が厚い。

「あんな難しい本がよく売れているということは、韓国のレベルを物語っているのではないか。自慢ではないが、誰でも簡単に読める本ではない。私は『ローマ人の物語』を書く15年間、他の事は一切断って、印税だけで暮した。本を買って読んでくれた読者たちは、この15年間、私の作業に参加したわけだ」

——塩野氏が見る韓国はどうか。

「韓国には2度訪れたことがある。その時感じたことは、韓国と日本の最も大きな違いは、間に東海(トンヘ、日本名=日本海)があるという点だ。日本は海が守ってくれ、外部から侵略が不可能だった。徳川幕府の300年間、国内も平和だった。その間、長期的な視野で新しい試みをし蓄積することができた。いっぽう韓国は、朝鮮400年の間、独自の永続的なシステムを作らず、一時的な対応ばかりしてきたという感じだ。すぐそばに自らを世界の中心と考える中国がいて、常時意識しながら生きなければならなかったからかもしれない」

——それでも韓国は5000年間、独自の国家を運営してきた。100年前であれ今であれ、米日中露の列強の間で活路を模索する身でもある。

「韓国は料理を見てもそうだが、すべての点で『浪費(無駄な努力)』のないのが問題ではないかと思った。日本料理を見れば、無駄なことに丹精を込めることが多い。しかし実は、新しいこと創造的なことは、このような無駄な努力から生まれる場合が多い。韓国はそのような『剰余的要素』がよく見えない」

——余裕なく生きてきたためではないか。

「女子フィギュアスケートの場合を見れば、私は今回の東京大会で1、2位を取った日本選手よりも、金姸兒(キム・ヨンア)選手が一枚上手だと思った。優雅(elegant)だからだ。これは努力だけでできることではない。ただ、金姸兒選手が転倒すればどうなるか。日本は1位ではなくても、そのレベルの選手が5人程いて、一人が崩れても他の人が挑戦する。韓国はどうか。何かで一度勝利することは簡単だが、それを守ることは難しい。これからはシステムを作らなければならない。映画でも経済でもすべてに該当する話だ」

●「失敗を通じた反省がなければ原理主義に陥る」

——『ローマ人の物語』は、現代文明に対する含意が散りばめられている。同書を書いた動機として、約200年間も広い地域にかけて「パックス・ローマーナ(ローマの平和)」が成立した理由を知りたかったと話されていたが。

「ローマの特徴は『自由』と『寛容』だ。これは多神教から出た。ローマ人たちは征服された民族の神であれ、すべて自分たちの神として祀り、ローマの神は30万にのぼった。いっぽう、一神教は自分の宗教だけが正しく、他人の宗教は誤っているという考えに基づいている」

——キリスト教とイスラム教、2つの一神教が衝突する現代は、中世の再来に見えると指摘していたが。

「キリスト教はそれでも中世以降、ルネサンスと啓蒙主義、二度の大戦を起して自己反省の機会が数回あった。しかし、イスラム教は一度も失敗を通じた反省の機会がなかった。原理主義が力を振るう理由だ。それゆえ恐ろしい」

——北朝鮮の要素もあって、東アジア情勢も容易ではなさそうだ。

「韓国(北朝鮮含)は原理主義的ではないかと思う時がある。『これだ』と言えばそれしか考えず、柔軟ではない。その点では、韓国人はイタリア人よりはフランス人に似ている。フランスは戦略的に思考せず、『米国に反対すれば善』であるかのように振舞っている。結果的に何が自国に有益かを考えなければならない」

●「国際社会でもリーダーが必要だ」

——最近の韓国の流行語は「サンドイッチ国家」だが。

「日本は、外国と付き合うのが下手だ。会話もうまくない。民主や自由という抽象的なことに弱い代わりに、商品をうまく作る。このような日本が『大国』云々すると、私は笑ってしまう。韓国や日本は『中』程度の国家だ。互いに力を合わせなければならない。中国の浮上に備える意味でもそうだ。中国が自ら『大国』と言うのもおこがましい。今もイタリアは、中国人の組織的な不法移民のために頭を抱えている。他国に迷惑をかけることを何とも思わない『大国』があるだろうか。中国が覇権を掌握すればどうなるか、歴史をよく見なければならない」

——中国に対していい評価をしないようだ。

「紀元前2世紀〜3世紀、ローマと中国は技術のレベルが似ていた。しかし、行なったことは違った。ローマが『すべての道はローマに通ず』と言って、属州国家にまで道路をつくり、水道を供給したのに比べ、中国では万里の長城を築いた。『開かれた帝国』と『閉じられた帝国』の差は大きい」

——韓日間の歴史問題は、戦後60年以上経ったが、まだ解決されていない。

「歴史に対する解釈は、元来国家によって異なる。しかし、『事実』は共有することができ、相手の解釈を理解することはできる。いい例が、クリント・イーストウッド監督による昨年上映された硫黄島を扱った2つの映画だ。敵国として戦闘に参加した米国と日本の話を2本の映画で編み出した。欧州の歴史学界では、これを『コロンブスの卵』と言っている。簡単なことだが、誰も考えもしなかったことだ。軍慰安婦問題も然りだ。事実から正確に調べることが先だ」

——今後の計画は…。

「今年は15年分の休暇を取ろうと思っている。人が年を取るということは、少しずつ自分の可能性を消していくという意味でもある。いくら楽観的に見ても、私が作家生活を送れる期間は10年ほどしか残っていない。今年1年、その10年間何をするかを考えてみようと思う。もう一つは、『ローマ人の物語』の英語訳を準備中だ」



sya@donga.com